
ベニヒワはスズメ目アトリ科に属する小さな野鳥で、寒い地域から群れでやって来る冬鳥です。その名の通り、頭部に鮮やかな赤色の斑(赤い帽子のような模様)があるのが最大の特徴で、見る人を魅了します。体長は13cmほどで、スズメより少し小さめ。バードウォッチャーに人気が高い、可愛らしい冬の訪問者です。
ベニヒワの特徴
「ベニヒワ」という和名は、頭の「紅(べに)鶸(ひわ)」という意味に由来しています。
ベニヒワの体色は全体に明るい灰褐色で、背中や脇腹には暗褐色の縦斑が入ります。翼には白い帯があり、尾羽は暗褐色で先端が浅く切れ込んでいて、先がチョンと尖っています。くちばしは黄色味を帯びた小型の円錐形で、脚は黒っぽい色をしています。
- 頭部の色:前頭部は紅色で、まるで赤い帽子をかぶっているように見えます。オスでは額だけでなく胸にも薄い紅色があり、全体に華やかさがありますが、メスは胸から腹にかけて白っぽいままです。若鳥は額の紅斑が薄く、小さく見えるため、よく観察しないと識別が難しいことがあります。
- 翼と尾:翼上面は淡い褐色で、白い線が入ります。尾羽は暗褐色で先端に浅い切れ込みがあり、地上に止まっている時にも尾羽の形状からベニヒワとわかることがあります。
- 腹部と脇:腹部は白っぽく、脇腹に暗褐色の縦斑が続きます。飛翔中や止まっているときに腹部の白さが目立ち、逆光時には白いお腹を輝くように見せることがあります。
- その他の特徴:目先やのどの上部に黒っぽい羽毛があり、小さなアイマスクのように見える個体もいます。全体的には地味な色合いですが、紅い斑点が遠目にも目立つため、野外でも比較的見つけやすい鳥です。地味な体色は冬の雪景色に溶け込みやすい保護色にもなっています。
生息地と生態

ベニヒワは北極圏周辺の寒冷な森林地帯で繁殖する鳥で、ユーラシア大陸北部や北米北部の針葉樹林帯で見られます。夏は北極圏近くで過ごし、冬になると食料を求めて南下します。日本には主に北海道と本州北部に冬鳥として渡来し、冬期には群れで越冬します。森林の縁や開けた草原、農耕地の縁で見られ、特にハンノキやカラマツの種子を好んで食べます。これらの木が生える場所では枝から枝へ移動しながら盛んに実をついばむ姿が観察されます。
ベニヒワは群れを作って行動し、多い年には数百羽にもなる大群を形成します。昼間は樹上で過ごすことが多く、枝から枝へ二足跳びで器用に移動します。寒さに強く、厳冬期でも元気に飛び回ります。春先には雪解け水を飲むため地上近くの水たまりに降りる姿や、残った木の実を集める様子が見られます。群れの中にはマヒワやイスカ、カラ類など他の小鳥が混じることがあり、数種が一緒になって群れで行動することもあります。
ベニヒワは北半球の北極圏近くに広く分布し、シベリアや北欧、アラスカ、カナダ北部などで繁殖します。夏にはこれらの亜寒帯の広大な森林地帯で子育てし、冬になると極北から季節的に南下します。ヨーロッパ北部からユーラシア大陸東部、北アメリカの寒帯域にかけて越冬する個体も多く、広く冬に南下する習性があります。日本へ飛来するベニヒワは、この越冬ルート上にある個体群に含まれます。
出現時期と分布
- 1月~3月:最も観察しやすい季節です。寒波の影響で北海道や東北に大量の群れが飛来し、数百羽単位の大群となることがあります。雪に覆われた河川敷や湿地でエサを探す群れを見つけやすく、早朝や夕方には活発に鳴きながら飛び回る姿が見られます。
- 4月:春になり日照時間が長くなると北へ帰る個体が増えます。例年は中旬頃から数が減りますが、当たり年には遅くまで群れが残ります。春先には樹上に残った種子や芽をついばむ姿も見られ、早朝の冷え込み時には尾羽を震わせて体温を保つ様子を観察できることがあります。
- 5月~9月:繁殖のため北へ渡っている時期で、日本ではほとんど観察されません。北へ移動中に立ち寄る個体も稀にいますが、ごく少数です。繁殖地では夏に針葉樹林の中で子育てをしており、9月下旬以降に次の年の群れが南下し始めます。
- 10月下旬~12月:次の冬に向けて飛来が始まる季節です。特に11月下旬から12月にかけて初期の群れが見られることが多く、寒気が強まるとまとまった群れが渡来します。北海道内では早くから確認される一方、本州では標高の高い山地で越冬準備をする姿が見られます。
冬期には北海道でよく見られ、本州では特に東北地方や北関東の山地で観察例が多いです。新潟県や長野県の山間部でも年によって大群が飛来します。逆に四国・九州では極めてまれで、沖縄ではほとんど記録がありません。飛来数は年によって大きく変動し、特に寒波が来る当たり年には北海道から東北にかけて何千羽もの群れが飛来します。暖冬の年や北方の餌が豊富な年は、ほとんど見られないこともあります。
日本での観察ポイント

ベニヒワは飛来数の多い年に、以下のような場所でよく観察されています。
- 栃木県・戦場ヶ原:日光国立公園内の高層湿原で、カラマツやハンノキが点在します。冬にはマヒワの大群が飛来し、その群れの中にベニヒワが混じります。赤沼駐車場付近から自然研究路にかけて、低い枝に群れがとまっていることがあります。戦場ヶ原は積雪が多く厳しい環境ですが、その分ベニヒワが好むヤシャブシなどの種子が残りやすいため、越冬中の群れが長く滞在しやすい場所です。散策路も整備されているので、凍結に注意しつつ双眼鏡で木の枝を丹念に探してみましょう。
- 長野県・野辺山高原:八ヶ岳山麓に広がる標高約1300mの高原です。冬はたくさんのマヒワが飛来することで知られ、広い牧草地や防風林にベニヒワも来訪します。野辺山高原は寒暖差が激しく、冬に晴れる日が多いため、群れが雪原に映えます。車で移動中でも視界が開けているため、ちらちら木の上を飛ぶベニヒワの群れを見つけることができます。夜は冷え込みが厳しいですが、晴れた日の日中は空気が澄んでいるので、遠くに見える群れの姿も発見しやすい場所です。
- 北海道道東(釧路・十勝):釧路湿原周辺や帯広市の緑ヶ丘公園などで観察例があります。湿地や河川敷、農耕地周辺などが餌場となり、晴れた日には木の枝にとまる赤い斑点が目立ちます。
- その他の地域:青森県八甲田山や山形県蔵王連峰など、積雪の多い山岳地帯でも記録があります。さらに、札幌市の円山公園や藻岩山周辺でも、寒波の年に群れが渡来した例が報告されています。都市周辺でも条件によっては観察できる可能性があることを覚えておきましょう。
ベニヒワの詳しい生息地や見られるポイントについては以下の記事で紹介しています。
ベニヒワ観察のコツ

ベニヒワを探す際には、以下のポイントを参考にしてください。
- 明るい日中に探す:ベニヒワは林の奥よりも明るく開けた場所で活動することが多いです。日中の時間帯に、雪原や河川敷がよく見渡せる場所で双眼鏡を覗きましょう。背後が白い雪景色だと、頭部の赤い斑点が非常に見つけやすくなります。
- 小鳥の群れをチェック:冬の森でマヒワやイスカ、アトリ類などの群れが見られたら、その周辺にベニヒワが混じっていないか探します。特にマヒワの群れにはベニヒワが含まれることがあるので、群れに黄色いマヒワと一緒に白っぽいベニヒワがいないか確認しましょう。
- 餌場を狙う:ベニヒワは種子が多い場所に集まります。ハンノキやカラマツの実が落ちている地面や、これらの樹木がある田畑の縁などを重点的に探します。公園などでヒマワリの種や雑穀をまいている場所に飛来することもあるので、エサ台があれば観察してみましょう。
- 静かに待つ:ベニヒワは驚くと一時的に飛び去りますが、エサがある場所には戻ってきます。いったん双眼鏡で確認した後は、木の陰や離れた場所でじっと待ちます。寒い時期なので防寒対策は必須ですが、静かに待っていると数分後に群れが戻ってくることがあります。
- 群れの動きを利用する:群れの中には高い木にとまって周囲を見張る個体がいることがあります。そのため、群れが飛び立ってしまっても慌てずに待つと、少し時間が経って戻ってくることがあります。群れは仲間の安全を確認してから採食を再開するので、その間に観察するのが賢明です。
- 見かけたとき:ベニヒワを見つけたら急に近づかず、一定の距離を保って観察しましょう。木の影に隠れることなく、静かに観察・撮影を行うと、鳥は安心して再び群れに戻ってきます。見つけた場所の情報を探鳥会やSNSで共有すると、他のバードウォッチャーにも役立ちます。
天敵と注意点
ベニヒワの群れにはタカやフクロウなどの猛禽類が近づくことがあります。ベニヒワは警戒心が強く、猛禽が飛来するとすぐに飛び立ちます。そのため観察時には周囲の鳥の様子にも注意が必要です。もし猛禽を見かけたら、木陰や茂みに隠れてしばらく待ち、ベニヒワが落ち着いて戻ってくるのを待ちましょう。また、車で探鳥する場合は道路の凍結や雪で滑りやすいので安全運転を心がけます。寒さの中で長時間粘ると体温が低下するので、こまめに体を温め休憩を取りながら観察しましょう。
おすすめの探鳥アイテム
初心者がベニヒワを探す際にあると便利なアイテムを紹介します。まず双眼鏡は必須で、8~10倍程度の倍率があれば群れを見つける確率が高まります。次にカメラやフィールドスコープがあると観察の記録が残せるのでおすすめです。冬用の長靴や防寒ウェアも重要です。積雪や雪解けで地面が滑りやすいため、防水性のあるものが望ましいです。さらに、携帯用チェアやホットドリンクを持っていくと、長時間の野鳥観察が快適になります。
まとめ
ベニヒワは鮮やかな赤い帽子斑が魅力の冬鳥で、見つけられると探鳥の楽しい思い出になります。頭部の紅斑、胸の色、翼の白い帯などが見分けのポイントです。雪景色の中で群れを見つけたら、双眼鏡を通してその姿をじっくり楽しみましょう。冬の厳しい寒さの中でじっと待つと、思いがけず群れが近くに戻ってきて、その可愛らしさに驚くことがあります。自然豊かなフィールドに出かけて、赤いベレー帽をかぶったような可愛いベニヒワに会いに行ってください。

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