
オシドリはカモ科の水鳥で、オスの非常に鮮やかで美しい羽色と仲の良い夫婦の象徴「おしどり夫婦」という言葉でも広く知られています。雌雄で外見が大きく異なるため、基本的にはオスとメスの違いは初心者にも見分けやすい鳥と言われます。しかし季節によってはオスがメスと同じような地味な姿になるため判別が難しい時期もあります。この記事では、オシドリのオスとメスの違い(雌雄の特徴)や見分け方について、初心者向けにわかりやすく解説します。
オシドリとはどんな鳥?

オシドリ(鴛鴦、学名 Aix galericulata)は全長約45cmほどの小型のカモで、渓流や湖沼などの水辺に生息しています。夏は山間部の森林に囲まれた渓流や湖で繁殖し、冬になると平地の公園や池などでも姿を見ることができます。野生下では他のカモ類と同様、秋から冬にかけて繁殖相手を求めて南へ移動(渡り)する漂鳥です。
繁殖期には山あいの川岸や湖畔近くの樹洞(木のうろ)に巣を作ります。そのため、オシドリはカモの仲間としては珍しく日中に木の枝上で休息している姿が観察されることもあります。エサは主に植物の種子や果実ですが、中でもドングリが大好物で、ドングリの実る森のある水辺によく集まります。
オスとメスのつがいが寄り添って泳ぐ様子が微笑ましいことから、「おしどり夫婦」という言葉の由来になった鳥でもあります。実際の生態はこの言葉のイメージとは異なる部分もありますが(後述)、美しいオスの羽色とあいまって古くから人々を惹きつけ、屏風絵や着物の模様など絵画・工芸の題材にもなってきた野鳥です。
オシドリのオスとメスの違い
オシドリのオスとメスは、羽色をはじめ外見に顕著な違いがあります。以下に主な相違点をまとめます。

- 羽の色・模様: オスは頭部に緑色や紫がかった羽毛と橙褐色の羽毛が混じり、白いライン模様も入った派手な毛並みを持ち、目の周りから後頭部にかけて長い冠羽(とさか状の飾り羽)が伸びます。体側には銀杏羽(いちょうばね)と呼ばれるオレンジ色の扇形の飾り羽が立ち、全身が非常にカラフルです。胸は赤褐色(栗茶色)で白い縦模様が入り、腹部は白と黒のはっきりした模様になっています。

- メスは全体が灰褐色の地味な羽色で、胸から脇、腹にかけて白っぽい斑点模様があります。また目の周囲には白いアイリング(白い輪模様)があり、目尻から後方へ白い線が伸びるのが特徴です。メスにも後頭部にわずかながら冠羽がありますが、オスほど目立ちません。

- くちばしの色: オスのくちばしは鮮やかな赤色(赤橙色)で先端は白っぽくなっています。メスのくちばしは暗い灰褐色で地味な色合いです。
- 体の大きさ: オスとメスでは若干オスの方が大きく、オスの全長が約48cm、メスは約41cmほどになります。一見して大きな差はありませんが、オスの方がややがっしりしています。
- その他の特徴: 翼の一部にある緑色に光る”翼鏡(よくきょう)”と呼ばれる模様はオス・メスで共通です。また、両者の足はともに橙色で、性別による違いはほとんどありません。
以上のように、オシドリは雄雌で羽の模様や色彩が全く異なる性的二型(性差)が顕著な鳥です。オスが派手な羽色なのはメスに対してアピール(求愛)するためであり、逆にメスの地味な色合いは天敵に見つかりにくくする保護色の役割があると考えられています。
オスの羽色が変化する「エクリプス」期

繁殖期が終わる初夏から夏にかけて、オシドリのオスは換羽(羽毛の生え替わり)によってメスとよく似た地味な羽色に変化します。カモ類のオスに見られるこの非繁殖期の羽衣をエクリプスと呼び、その名のとおり鮮やかな羽色が一時的に隠れる「日食」のような状態を指します。このエクリプス(換羽後の地味な羽色)はオシドリに限らずカモ科のオスによく見られる現象です。
夏の間は一見すると群れにメスばかりがいるように見え、「ここにはメスしかいないのですか?」と質問されるほどオスが目立たなくなります。しかし、エクリプス期のオスでもくちばしは通年赤いままなので、それを手がかりに雌雄を見分けることが可能です。実際に野外で観察する際も、双眼鏡でオシドリのくちばしの色をよく見れば、地味な個体の中にエクリプスのオスが混じっていることに気づくでしょう。
秋が深まる頃になると、オスは再び鮮やかな繁殖羽(冬羽)に換わっていきます。夏の終わりから初秋にかけては換羽途中のオスがモヒカン刈りのような中途半端な羽姿を見せることもありますが、10月頃には美しい羽色が復活し、またオス・メスの違いがはっきりとわかるようになります。
オシドリのオスとメスの見分け方
それでは、野外でオシドリのオスとメスを識別するためのポイントを整理してみましょう。観察シーンに応じたチェック項目を挙げます。
- 観察する季節を考える: 冬(主に11月〜3月)の時期であれば、オスはカラフルな繁殖羽を身にまとっているため一目で判別できます。逆に夏(6〜8月頃)の場合、オスはエクリプスでメスと同じような地味な羽色になっているため、次に挙げるくちばしの色など他のポイントで見極める必要があります。
- 羽の模様や色を見る: 繁殖期のオスはオレンジ色の銀杏羽や派手な羽色が特徴的で、メスの地味な体色とはっきり区別できます。メスは全身が灰褐色で目立つ模様は少ないですが、目の周りの白いアイリングはよく目に付きます。一方、夏場のオスは地味な羽色になっているため、この方法だけでは判別が難しいことがあります。
- くちばしの色を確認する: オスかメスか迷ったら、くちばしの色に注目しましょう。オスは一年中くちばしが鮮やかな赤色なのに対し、メスのくちばしは灰褐色です。夏のエクリプス期でもオスのくちばしは赤いまま変わらないため、この特徴を頼りにすれば地味な羽色の個体も識別できます。
以上のポイントを踏まえれば、オシドリのオスとメスをかなりの高確率で見分けることができるはずです。それぞれ単独でも判別の手がかりになりますが、複数の特徴を組み合わせて確認するとより確実でしょう。特に夏場はオスの羽色が地味になるため、赤いくちばしが最大の手がかりになります。双眼鏡やカメラを利用して、ぜひフィールドでオシドリの雌雄を観察してみてください。
オシドリ観察のコツ

- 見られる時期と場所: オシドリは繁殖期(春夏)には人里離れた山間の渓流などに生息していますが、非繁殖期(秋冬)になると低地の公園や池など比較的身近な場所にも飛来します。観察しやすいのは冬の時期で、特に11月~翌3月頃にかけて各地の水辺で見られる可能性が高まります(例えば東京の新宿御苑などは冬にオシドリが飛来することで知られています)。
- 静かな時間帯を狙う: オシドリは警戒心が強く、人が多いと茂みの陰に隠れて出てこないことがあります。人出の少ない早朝や平日などを狙うと観察しやすくなります。特に人気の公園では、週末より平日の午前中の方がオシドリがリラックスして姿を見せてくれるでしょう。なお、観察時は物音を立てず静かに行動し、むやみに近づきすぎないよう注意しましょう。
- 隠れている場所を探す: 派手なオスも含め、オシドリは意外と周囲の環境に溶け込んで見つけにくいことがあります。池や川で探す際に水面に見当たらない場合は、岸辺の草陰や水際に張り出した枝の下などに隠れていないか探してみましょう。また、オシドリは木の上にとまって休む習性もあるため、水辺の近くの枝上に留まっていないか上方にも目を配るとよいです。地味な体色は周囲の景色に溶け込みやすいため、双眼鏡を使って根気強く探してみましょう。
- 双眼鏡や望遠鏡を活用する: オシドリの雌雄を識別するには、離れた場所からでも特徴が確認できるように双眼鏡やフィールドスコープ(望遠鏡)があると理想的です。特にオスのエクリプス期にはくちばしの色を見ることが重要になるため、光学機器があると安心です。遠く離れて休んでいる個体も、スコープがあればじっくり観察できます。
冬鳥として飛来するオシドリは全国各地の水辺で観察できます。お住まいの地域でも冬季のオシドリ飛来情報をチェックして、ぜひフィールドに足を運んでみましょう。
オシドリが観察できるおすすめの生息地は以下の記事で紹介しています。
「おしどり夫婦」の由来と真実

古くから仲の良い夫婦の例えとして「おしどり夫婦」という言葉が使われてきました。この由来は、オシドリのつがいが非常に仲睦まじく寄り添って行動する姿が印象的だったためだと考えられています。実際、秋から冬の繁殖シーズンにはオスとメスがペアになり、常に一緒に泳いだり行動したりします。水上でオスがメスに求愛のディスプレイを行ったり、お互いに寄り添って毛づくろいをし合ったりする姿も観察されます。特にオスが首を上下に振りながらメスにアピールする求愛ダンスは、実際に観察するととてもユニークで印象的です。
しかし、この「おしどり夫婦」という言葉から受けるイメージとは裏腹に、オシドリのペア関係は一生続くものではありません。春先に繁殖が終わるとオスとメスは離れ離れになり、メスだけで卵を抱いてヒナを育て上げます。野生では高所の樹洞に9~12個の卵を産み、約28~30日間抱卵したのちに孵化します。抱卵中、オスは巣の近くで外敵からメスを見守る様子も記録されていますが、ヒナが巣立つ頃にはオスは姿を消し、ペアの関係はそこで終わりを迎えます。孵化した雛は翌日には巣穴から地上へと飛び降り、母親に導かれて水辺で成長していきます。秋にはオスは別のメスと新たにペアを形成します。その結果、前年と同じ相手で再び夫婦になる例はほとんどないことがわかっています。言い換えれば、オシドリは毎年パートナーを替えるのが普通で、「一度きりの生涯の伴侶」を持つ鳥ではないのです。
こうした習性を知ると夢が壊れてしまうと感じるかもしれませんが、繁殖期の間だけとはいえオシドリのペアが仲良く行動する様子自体は微笑ましく、これが「おしどり夫婦」と称えられる由来になったのでしょう。中国でもオシドリは夫婦円満のシンボルとされ、結婚式の装飾や物語の題材にも古くから登場します。ちなみにオシドリの漢字表記「鴛鴦」は、左側の「鴛」がオス、右側の「鴦」がメスを意味する文字で、雌雄一対で一つの言葉を構成しています。
まとめ
オシドリはオスとメスで羽色がまるで違うほど外見に差がある美しい野鳥です。その華やかなオスの姿から「おしどり夫婦」という言葉も生まれましたが、実際には毎年ペアを解消して新しい相手とつがいを作るという、野生ならではの生態も持ち合わせています。
改めて特徴を挙げると、オスは緑・橙・紫・白など色彩豊かな羽毛に赤いくちばし(足もオレンジ色)を持ち、メスは全身が灰褐色で目の周りに白い輪があり、くちばしは灰色と明確に異なります。このような違いを念頭に置きつつ、オスとメスの見分け方のポイントは、季節によるオスの羽色の変化を踏まえて、「羽色」「くちばしの色」「鳴き声」に注目することです。特に夏のエクリプス期にはオスが地味になるぶん、くちばしの赤色が決め手になります。冬の公園や湖に行けば、運が良ければカラフルなオスと地味なメスが仲良く泳ぐ「おしどり夫婦」さながらの光景に出会えるでしょう。ぜひ双眼鏡を片手にオシドリの雌雄を観察してみてください。その際、本記事で紹介したポイントを参考に、オス・メスの違いを確認してバードウォッチングを一層楽しんでいただければ幸いです。