
はじめに
千葉県は湿地、農耕地、森林、海岸など多彩な環境に恵まれ、猛禽類(タカやワシ、フクロウなど)の観察に適したフィールドが数多くあります。たとえば広大な北印旛沼では、湖に集まる水鳥を狙って周囲の田畑に猛禽類が姿を現し、多くの種類を観察することができます。また富津岬のように東京湾を渡る渡り鳥たちの重要な中継地となっている場所もあり、渡りのシーズンには多くのタカ類が上空を通過していきます。さらにフクロウなど夜行性の猛禽類も千葉県内に生息しており、我孫子市では市の鳥にフクロウを指定し巣箱にカメラを設置して公開するなど、その存在を見る機会も設けられています。湖で魚を捕えるミサゴの豪快なダイブや、上空を優雅に旋回するタカの姿を間近に観察できるのは猛禽観察の醍醐味。四季折々で出会える種類や光景も変化し、飽きることがありません。
北印旛沼【成田市・印西市】

北印旛沼は千葉県北部、成田市と印西市にまたがる大きな沼で、周囲に広がる田園地帯も含め一年を通して野鳥観察者に人気の探鳥地です。特に冬場は猛禽類の宝庫で、沼周辺の開けた田畑ではチュウヒがヨシ原の上を低空でパトロールし、電柱や建物の上にはチョウゲンボウがとまっている姿がよく見られます。

運が良ければ冬の渡りとして飛来するコチョウゲンボウが素早く飛び回るのを目にすることもあるでしょう。
沼の上空にはミサゴが頻繁に飛来しており、魚を狙って旋回する姿や、捕えた魚を抱えて陸地へ飛ぶシーンに出会えることもあります。そのほか冬にはハヤブサやオオタカ、ノスリといった猛禽類も姿を現し、まさに“猛禽パラダイス”とも言える充実ぶりです。ベストシーズンは冬ですが、初夏にもヨシゴイなどの夏鳥が賑やかで一年中楽しめます。
観察のコツ: 北印旛沼は日陰や防風林がほとんどない開放的な環境のため、夏は日差し、冬は寒風への対策が必要です。西側堤防上はサイクリングロードになっているので、自転車にも注意しながら探鳥しましょう。広い田んぼには猛禽類のとまり木になりそうな高い場所が限られるため、電柱や建物の屋上などはこまめにチェックすると◎です。
アクセス: 公共交通機関で行きづらいため車でのアクセスが便利です。東関東自動車道・宮里ICから約20分、北印旛沼西端の吉高揚水機場付近に駐車スペースがあります(トイレなし)。
手賀沼【我孫子市・柏市】

手賀沼は千葉県北西部に位置し、我孫子市と柏市にまたがる大きな沼です。北岸には全長5km以上の遊歩道が整備されており、ヨシ原や田んぼ、林縁を眺めながら歩けるため初心者にも探鳥しやすいスポットになっています。広い沼には冬になると水鳥が多数飛来し賑わいますが、猛禽類も例外ではありません。冬枯れのヨシ原上をチュウヒが低空で飛んでいる姿が観察されることがあり、ヨシ原すれすれを飛ぶ猛禽を見つけたら要チェックです。
沼に点在する杭にはカモメ類やアジサシ類と並んでミサゴが休むこともあり、周囲に他の鳥がいない状態で杭の上にポツンと大きな鳥がとまっていたらミサゴの可能性が高いでしょう。上空を見上げれば留鳥のトビが旋回し、季節の移ろいとともにサシバなど渡り途中のタカ類が飛来することもあります。手賀沼北岸には我孫子市鳥の博物館もあり、バードウォッチングのついでに立ち寄って地域の野鳥情報を仕入れるのもおすすめです。
アクセス: JR常磐線の北柏駅・我孫子駅・天王台駅、またはJR成田線東我孫子駅から手賀沼周辺へ徒歩でアクセス可能。沼沿いに駐車場や公衆トイレを備えた公園も点在し、車の場合は常磐自動車道・柏ICから約25分です。
コジュリン公園【東庄町】

コジュリン公園は香取郡東庄町、利根川と黒部川に挟まれた河川敷に位置する公園で、その名の通り夏にはコジュリンが多く見られることで知られます。周囲には一面のヨシ原と田んぼが広がり、年間を通して多彩な野鳥を観察できる探鳥地ですが、中でも冬は猛禽類の観察に絶好のポイントです。寒い時期になるとミサゴが川面を睨み、チュウヒは枯れたヨシ原の上を悠々と飛び回ります。特に夕方、堤防上の観察デッキに立てば塒(ねぐら)に戻るチュウヒなど猛禽類の動きが一望でき、逆光になりにくい時間帯でもあるため遠く川沿いの木にとまるノスリなども探しやすいでしょう。
ノスリやチュウヒがホバリングする田園にはハヤブサの姿もあり、獲物を狙って畦道に降りていることもあります。

冬の田んぼにはタゲリの大きな群れが飛来しますが、彼らが一斉に鳴きながら飛び立ったら付近に猛禽類が現れた合図です。観察デッキはヨシ原を見渡せる堤防上に設置されており、猛禽類観察にはうってつけのスポットとなっています。
アクセス: JR総房線の笹川駅から徒歩約15分で利根川の堤防に出られ、そこから公園内に入れます。車の場合は東関東道・佐原香取ICから約20分。公園内のトイレ横に数台停められる駐車スペースがあり、トイレも完備。
北総花の丘公園【印西市】

北総花の丘公園は千葉ニュータウン中央駅から徒歩5分という好立地にある、印西市内の広大な都市公園です。園内はA~Eまでのゾーンに分かれ、中央には戸神川調節池という大きな池、南側には里山の谷津田が隣接しており、一年を通じて多彩な生態環境が維持されています。そのため野鳥も豊富で、猛禽類では留鳥のオオタカが園内の林に生息し、春から初夏にかけては渡りのサシバが田んぼ沿いの森に姿を見せることがあります。実際、夏には谷津田周辺で木の上にとまって獲物を探すサシバを見ることができます。

冬季はオシドリをはじめカモ類が池を彩り、ルリビタキなど小鳥も観察できますが、園内の林ではオオタカが飛び回ることもあり油断できません。園内には野鳥観察窓(ブラインド)も設置されており、水辺の鳥から猛禽類までじっくり観察できる工夫がされています。
アクセス: 北総線「千葉ニュータウン中央駅」から公園入口まで徒歩5分。駐車場も整備されており(有料、夏季は時間延長あり)、マイカーの場合は東関東道・千葉北ICから約30分ほどで到着します。
富津岬【富津市】

富津岬は千葉県南部、東京湾に突き出した岬で、東京湾を渡る渡り鳥にとって重要な中継地になっています。毎年秋(9~10月)になるとサシバやハチクマなどタカ類の渡りが見られ、岬の先端にある展望台や旧砲台跡の「中の島」など高台のポイントから上空を通過する猛禽類の群れを観察できます。このダイナミックな「タカの渡り」は圧巻で、タイミングが合えば次々と岬を越えていく猛禽たちの姿を間近に捉えることができるでしょう。冬の時期には留鳥や冬鳥の猛禽も岬周辺に残り、東京湾上ではミサゴが魚を狙って旋回しています。遠く海上に立つ杭の上にポツンと留まる大型の鳥を見つけたら、それはミサゴかもしれません。

富津岬周辺には松林、大きな潮入り池、砂浜と干潟など多様な環境が揃っているため、水鳥や小鳥も豊富です。猛禽を探しつつ、潮が引いた干潟でシギ・チドリ類を観察したり、池に飛来するカモ類をチェックしたりと、一日中バードウォッチングを楽しめます。海沿いの開けた地形ゆえ風が非常に強い日も多いので、訪れる際は天気予報に加えて風の予報にも目を通しておくと安心です。
アクセス: 公共交通機関の便が限られているため車でのアクセスが中心になります。館山自動車道・木更津南ICから約25分で岬の入り口に到着。広い無料駐車場とトイレが整備されているので、マイカーでも安心して訪問できます。
まとめ
千葉県内には以上のように猛禽類の観察に適したスポットが点在しており、それぞれ異なる環境と魅力を持っています。森・沼・田んぼ・海辺とフィールドが変われば出会える猛禽の種類も変化し、季節ごとの見どころも様々です。観察に出かける際は、野鳥および地元の方々への配慮を忘れないようにしましょう。たとえば農耕地では農作業の邪魔にならないよう細心の注意を払うこと、越冬中や繁殖期の野鳥にむやみに近づかず静かに観察することはバードウォッチングのマナーの基本です。また、日差しや寒さ対策に加えて海岸部では強風への備えも大切です。遠くの猛禽の動きまで捉えるには双眼鏡やフィールドスコープがあると便利なので、ぜひ持参しましょう。ルールとマナーを守って十分な準備をしてフィールドに出れば、千葉県ならではの雄大な猛禽類観察を存分に楽しめるはずです。ぜひ四季折々の猛禽との出会いを満喫してください。
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